記憶混濁*甘い痛み*

「ゆ、う り?」


友梨の表情を探りながら、芳情院は返答出来ずに口を噤む。


今の君は、何を記憶し何を消した友梨なんだ?


オレの存在は、ただのお兄様か婚約者か夫か

それとも……陵辱者、か。
……友梨。  




「クリフ、下がって。君の髪の色だ」


狩谷はそう言うと、クリフに『お疲れ』と、小さく呟き、注意深く友梨の様子を探る。


クリフの赤い髪の色が、彼女のあの時の記憶を引き出したんだ。

昨日までクリフの髪はブロンドだった。

条野(深山咲)友梨のワードは『赤い髪』か……?


「おにいさま……?」


「……」


真っ直ぐ見つめられる友梨の視線に自分を嫌悪する様子はない。


芳情院は安堵感を持ちながらも、自分自身が過去友梨に犯した過ちから、長く彼女の瞳を見続ける事が出来ずに目をそらす。


「……ゆうりの、あかちゃん、どこに、いったのかなあ」


荒く短い呼吸を繰り返しながら、友梨はベッドの上で背中を起こし、平らのままの下腹を撫でた。


「サリー、口元に紙袋当ててあげて?酷くなってる」


狩谷は女性の看護士に友梨の過呼吸の手当てを依頼。


彼女のトラウマは男性と赤い髪、サリーなら大丈夫。 そう、判断して。
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