記憶混濁*甘い痛み*
今のオレには。
『本来の』彼女の手を取り抱きしめる事なんて。
果てしない夢でしかないと言うのに。
けれど。
愛する妻の、喉から血が吹き出しそうな叫び声に、自分の息が出来ない程苦しくなる。
「……条野!条野頼む!オマエなら友梨を助けられるだろう!オレではダメだ!オレでは友梨を傷つける !条野!!」
和音は、先ほどから三度目になる芳情院の訴えを聞いて。
ギリッと奥歯を噛み締めてから、妻のいる部屋の重い扉を、開けた------