記憶混濁*甘い痛み*

「はずして!はずしてはずしてはずして!はずしてはずしてはずして!…もういやっ…!やだぁ!」


部屋に、入ると。


両手首を拘束帯でベッドにつながれ、首を振って泣き叫ぶ妻の姿があった。


和音は友梨の姿を見ると一瞬顔をしかめ、辛そうな表情をしたものの、軽く息を吐いて、すぐに普段の表情に戻してみせた。


「やだ、やだやだやだ!もうやだ!もうやなの!!いつもゆうりばっかり!ゆうりばっかり!サワラナイデサワラナイデサワラナイデよぉ!みんなみんなみんなみんなみんなキライキライキライ……もう、やだぁ……」


他人から触れられるのを拒絶し、全身で抵抗を続ける友梨。


芳情院は、友梨の姿を見続ける事が出来ずにベッドから離れ、座り込んでしまっている。


「……条野……条野頼む。友梨を……友梨を助けてやってくれ。オレではダメだ…オレではダメなんだ…友梨を、救えない……」


自分の過去の過ちに、現在の不甲斐なさに、疲れきった顔で、芳情院。


「条野さん、刺激を…」


アタエナイデ


そう言いかけた狩谷の問いかけに、和音は軽く手を上げて制止し、友梨から狩谷と看護師を離すと。




「いくらオマエが可愛くたって…イイ趣味じゃねーよな…こんな事されて…」




と、言って、友梨の拘束帯を解いていった。
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