記憶混濁*甘い痛み*

「……っ!」


狩谷は一瞬口を挟みそうになるものの、和音の落ち着いた態度を見て

慌てて友梨を押さえ込もうとした看護師を止め、鎮静剤を用意させながら、2人の様子を窺うことにした。



------ある意味、面白い研究対象ではある。



「…いや…!みんなきらい…!さわらないで!さわらないでよぉ!」


カタカタカタカタと身体を震わせながら、友梨は和音の事も信じられないといった様子で、怯えた瞳を向ける。


「ああ……解ってる」


和音はそう言うと、バタバタと空中に振り回している友梨の右手をそっと取って、自分の左胸に当てる。


「…な、に…っ!するの、よお!キライキライキライ!さわらないでっ!はなしてはなしてはなして!さわらないでっ!サワラナイデよぉ!」


和音に触れられて興奮し、空いた左手で友梨は和音の手の甲に爪を立てる。


男性にしては綺麗な皮膚に、食い込む、友梨の細い爪。


すぐに広がる、蚯蚓腫れ。

「……!はなしてはなしてはなして!はなしてはなしてはなしてはなして!はなしてはなしてはなしてはなして!」


友梨の声に、芳情院は耳を塞ぐ。


和音の手の甲からは、赤い血が、滲み出る。


「……っ!アカイ……」

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