記憶混濁*甘い痛み*
「気分は、如何かな?きみは雨に濡れてね、数日間うなされていたんだよ」
芳情院は、ベッドの脇のスツゥールに座る。
「友梨…またお兄様に迷惑をかけたのですか?覚えて、いない。ゴメンナサイ…」
ほんの少し落ち込んだ様子で、友梨。
「イヤ、謝ることはないよ。大丈夫だ」
「……お兄様」
友梨は芳情院の顔を見ると、そっと手を取り両手で包みこんだ。
「友梨…?」
「お兄様…もしかして朝までずっと、友梨の手を握っていて下さいました?」
「……」
「昨夜…久し振りに熟睡出来た気がするの。最近夢見が悪くて…怖い夢ばかりでまいっておりましたのに、今朝は…心地よさで目覚めることが出来た」
ほんの少し首を傾げて、友梨は甘えたような仕草を見せる。
そんな友梨に芳情院は意識して穏やかな笑みを浮かべると
「…そうか。それなら良かった。友梨が眠れない夜は、僕が悪い夢を食べる貘になろうか?」
と、言って友梨と視線を合わせた。
実際は彼女が見ていた怖い夢こそが、現実の世界だった訳だが。
「ええ。そうして下さいませ」
けれど芳情院の言葉を聞いて、嬉しそうに友梨は笑う。可愛い顔や細い首、手首に貼られたガーゼが痛々しい。