記憶混濁*甘い痛み*
それから、一週間ほどで。
NYの季節は、まるで手品を見せられたかのような速さで、雪も散らつく冬へと変わっていた。
友梨との関係は一進一退で、前回の反省から和音は彼女に近付く事に臆病になっていた。
それでも、愛する友梨の姿を、せめて瞳の端にでもとらえたくて
日に一度、病院には通っていた。
友梨の入院中の診療メニューは生まれながらに問題のある血液の検査結果と、怪我の治療、カウンセリング。
一番解らない彼女の心の状態を、和音は狩谷とは別の精神科医に聞いた事がある。
何が正解で何が間違いなのか。
何が正常で何が異常なのかと……
すると、返ってきた答えは。
『起こること全てが正解で、正常と思っている人が多い状態が正常。だから君が今異常だと思っている人達の方が多くなれば、その世界が正常になる。君は、奥さんが異常だと思うかい?』
と、いう、酷く曖昧なものだった。
友梨が異常だとは思わないが、普通の状態ではないのは解る。
……けれど。
その括りがワカラナイ。
まだ積もる前の湿った雪の空気を吸いながら、和音は広い病院の庭を歩く。