記憶混濁*甘い痛み*
あの日雨で汚れたストールは、クリーニングに出して芳情院に渡してあった。
そのストールを、今
友梨は半分の長方形に折って、リズの小さな身体に巻きつけたのだ。
そう、まるで、自分の子供にするかのように。
『こんばんは』
同じく口を開いただけで音を出さずに、和音。
例え友梨が、何も覚えていないとしても。
そしてその行為が、治療の一環だとしても。
自分と血のつながらない赤の他人から、ママと呼ばれ微笑む友梨を見るのは辛かった。
『疑似家族ですよ』
そう、狩谷は言った。
『今の奥様には、心に張りが必要だ。
自分がいないとダメな存在……犬とか猫とか……子供との交流を持たせましょう。
彼女はもともと母性愛の強い性格だ。
きっと、うまくいく』
なんて。言われて。
ついついOKを出したものの。
現場を見てみたら、思っていた以上に辛かった。
和音は、無理やり小さな笑顔を作ると、その場から、無言で離れた------