記憶混濁*甘い痛み*

『具体的に言おうか?』

和音が黙っているので、忍が先に口を開いた。


「……」


黙って、忍の言葉を待つ和音。


『今の、訳の解らない状態ではなく、籍を抜いて、一度ひとりに戻った方がいいんじゃないかな?和音?』


「…何を…そんな…」


いきなり思いもよらない話を振られて、和音はゴクリと息を飲む。


『今のままで、君は幸せになれるの?友梨だって……』


「オレの幸せなんて…どうでもいい」


『どうでも良くないだろ?友梨は良く「和音先輩の幸せが私の幸せ」……そう言っていたよ?あの頃の友梨がさあ、今の和音を見たら泣くよ?この前スカイプで話した時だって、疲れきった……酷い顔してたぞ』


「なら……友梨の側にいる事がオレの幸せだ」


デスクの上で開いていた仕事用のノートパソコンを閉じる。


頭が、回らなくなってきた。


『それなら、籍に拘らなくても良いんじゃないかな?和音は…イヤ、和音が、彼女を手放したくないだけだろ?違う?』


「…オマエに何が解る?」


『和音?』


「オマエに!オレと友梨の……何が解るって言うんだよ!」


たくさんの資料が乗った机を、携帯を持たない右の拳で叩く。


その振動で、雪崩のように崩れ落ち床にたたきつけられる資料の山。
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