記憶混濁*甘い痛み*
『でも今の友梨は和音に愛を返せない。オレは無宗教だから…カトリックも苦手でね。楽な道より苦しい道を選んだ時こそ価値を知るとか言われてもピンと来ないけど』
忍は、そのまま続ける。
『けど、オレはカトリックは苦手……いや、嫌いだけど、カトリックを愛する友梨は好きだ。彼女はイエスに愛される清らかな女性だった。和音ではない別の男を愛しているなら、君に心を奪われる事は罪悪にしかならない』
「……」
『和音が友梨を愛すれば愛するほど、きっと友梨は想い悩み苦しむ。和音は、そんな友梨が見たいのか?』
「……オレは」
『友梨は、和音の幸せを願ってるよ。きっと、心のどこかで』
「……第三者のセリフだな……」
仕事をする気をなくしたのか、和音は忍の返事を待たずに電話を切ると、今夜持ち帰って進める予定だった資料も鞄も置いて、会社から出て行ってしまった。
電話を切られた忍は小さく溜息をつくと、背後でハラハラと見守っていた友人達に首を振って見せた。
------心配しているのは、家族だけではないのだ。