二人の物語
「……」

そこには、携帯を鞄にしまいながらこちらに歩いてくる女の子の姿。

皆の視線に気が付いて一瞬目を見開いたけれど、すぐにふんわりと目元を和らげた。
声は聞こえないけれど、翔君、と呟いたのが見て取れる。


可愛い子だ。


ぎゅ、と、胸あたりの服を掌で掴む。
けれど、くるかもしれないと思っていた痛みは、来なかった。
隣で彼女の名前を呼ぶ翔の声も、なんでもなく耳に入ってくる。
自分に向けられる声音とは全く違う、甘い甘い声。
彼女になったら、こういう風に呼ばれるんだなぁとかそんなことは思ったけど。
それ以上の感慨は、浮かばなかった。



ただ……、うん。
終わってたんだなって。
もう、翔に対する気持ちが、過去になってたんだなって気づいた。
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