二人の物語
彼女を紹介しながら幸せそうに頭を掻く翔を見て、幸せだなぁって思った。
あんなに可愛かった翔が、男の顔をして彼女を見ていたから。
そんな翔が幸せそうで、凄く温かい気持ちになった。

痛むだろう心は、掠り傷さえ負わなかったのだ。
だというのに。
なんで、今日ここについた時、翔の彼女の事を聞いて逃げ出したんだろう。

ぐるぐると、宴会中、ずっと考えてた。
だって、好きだったはずなのに。
康のことがあったとしても、それでも、ここまで痛みを感じない自分と逃げ出した自分の矛盾が私の思考を占めていた。



……そろそろ、俺を見ろって。

ふと、康の言葉が脳裏に浮かぶ。

……早く、次に来い


強引に、自分の方に引き寄せようとする康。


なのに私は、半年間、康に返事をすることがなかった。
電話やメールを交わしていても、康はその事について何も話さなかった。


それに気づいていながら、どうにかした方がいいと思いながら、よくわからないもやもやを引きずったまま半年間。


なんで、もやもやしてたんだろう。
早く返事をすればよかったんだ。
是か否か。
ただそれだけのことだったのに。

急速に康を意識した私の気持ちが、どうしてもそれについていけなかった。
だって、だって……




「……そうか」


ふと思い浮かんだ言葉に、無意識に呟いた。


「終わって、なかったから、だ」


終わっていなかったから。
伝えることも終わらせて貰う事も出来なかった、恋だったから。
まぁ、それだけの気持ちだったとも言えなくもないけれど。
それでも、それまでの私にとっては本気の恋だった。
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