二人の物語
「なっ……」

月明かりが雪に反射してほんのりと明るい縁側に、真っ黒い物体が浮かび上がった。
中にいるのは、真っ赤になった康と私だけど。


「ふふん、ようやく照れる康を見れたわ。むかつくのよ、その余裕顔!」
はははーだ、一応私の方が年上なんだからね!

絶句したように固まっていた康は、何か諦めた様に溜息をついて顔を伏せた。

「もう、いいよ。で、何。俺のおかげって」
あれ、突っ込むか、そこ。
私は体育座りをした足先を自分のコートの中に引っ込めながら、目を細めた。
穏やかな気持ちが、心を満たす。



「翔のね彼女に会ったけど、何も感じなかったよ」

「え?」

「翔に会ったけど、何も感じなかった」



康を覗き込むようにして、私は微笑んだ。
精一杯の感謝の気持ちを込めて。

「康のおかげだよ。康が、私の気持ちを終わらせてくれた」
康は何も言わない。
だから、私はそのまま言葉を続ける。
「今日、翔と会う前に康に会ってなきゃ、あの二人の前で自分がどんな態度をとるか想像できて怖い」
多分、何も言えずにぎこちない笑みを浮かべるはめになっただろう。
そんな私を見て、翔とその彼女は居心地の悪い思いをしなきゃならなかったと思う。
そうならなかったのは、康のおかげ。
「翔が嬉しそうに彼女を紹介してるのを見て、幸せな気持ちになったよ。成長した弟を見ている感じで」

ふふ、と目を伏せた。



「終わったよ、康」



私の恋は。
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