二人の物語
感慨にふける様に呟けば、徐に康が口を開いた。

「で?」

その声が、不機嫌そうな色を見せていて驚いて顔を上げた。
さっきまでの照れている康じゃなくて、無表情に近い顔だった。

「え、康?」

いきなり怒り出した意味が分からず、思わず問い返す。
すると康は不機嫌な表情のまま、言葉を続けた。

「それで?」

それで?

首を傾げれば、康は深く息を吐き出した。
「沙奈に求めるのが、間違ってんのかねぇ」
しかも、しみじみと呟きやがった。
その態度にカチンときてつい、声を荒げる。
「何よ!」
なんか今日はこんな反応されるのが多くて、イラッと来るんですけど!


康は呆れた様に肩を落とすと、じっと私を見つめた。

「お前の気持ちが終わったのは、わかった。で、それを聞かされた俺は、期待してもいいのかってことだよ」
「へ? そんなの……」
“あたりまえじゃん、この状況。気づこうよ、そのくらい”
とか思ったけど、なんか口に出せなかった。
そうだよなー。私、まったく言葉にも口にも出してなかったもんなー。


ふむ、と内心納得する。


そして、ふと、悪戯心が芽生えた。
年下のくせに余裕綽々な康に、一矢報いたくなったのだ。
私が“おねーさま”だということを、思い知らせてやろう。



すぐに、後悔することになるのだけれど、この時の私は康にやり返すことしか頭になかった。
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