二人の物語
盆と正月に帰省する父の田舎に住む祖父母は、私が到着した時客間にいた。
目の前の廊下を通り過ぎた私の耳に、襖越しに従弟の声。

「翔?」

彼女が出来たという従弟の翔は、お盆にその姿を見せなかった。
恋心を抱いていた私は、半端なく落ち込んだものだ。
でもさ。実際目にしなきゃ、実感わかないし。
せめて顔位見たいじゃない。
徐に声を掛けようとしたら。
「こんな可愛らしい御嬢さんを連れてきて!」
楽しそうな祖母の声に、私は外に飛び出した。





「田舎に連れてこなくてもよくない?」
「婆に、大好きな彼女を紹介したかったそうだ」
「大好きとか、その声で聞きたくない」
被せられたコートを両手でかき合せながら、顔を伏せる。
「双子だから諦めろ。つか、盆の時点で失恋決定済みだろ」

ふ、と腕が温かくなる。
顔を上げれば康が隣に座っていて、私を伺うように見ていた。
その姿に思わず頬が熱くなって、視線を逸らす。

「俺の言葉、忘れてないだろうな」

失恋した私に、康が告げた言葉。
忘れる訳がない。
私がこうしているのは、その為でもあって…

「翔が探してるんだっけ」

誤魔化す様に立ち上がれば、腕を康に掴まれた。
「いつまで引きずるわけ?」
その手に力が入る。
「こんな沙奈を見て、俺がどう思うとか眼中なしかよ」
「それは…!」
拗ねた様に言い放つ康に、思わず声を上げた。

「…雪見てれば、白くなれるかなぁって」
「は?」

康は呆気にとられた様に、私を見上げている。

「自分を真白にできたら、次に行けると思ったの!」
「…おっとめー」
「…自分に酔ってたのよ」

口にすると、自分でも恥ずかしいな。

「でも頭の中までは無理ね」
思考までは、塗り潰せない。
「ま、彼女を見れば諦めもつくでしょ」
そう笑うと、急に康が立ち上がって私の腕を引き寄せた。




ほんの一瞬、唇に柔らかい感触。

突然の事に頭の中が真白になる。




康を見上げれば、目を逸らされて。
私の腕を掴んだまま歩き出した。


「白く、なっただろ」


ぼそりと呟いた言葉に、首を傾げる。


「だから、早く次に来い」


次に、来い?


「康?」


振り返りもしないけれど、康の耳元が真っ赤になっていくのを見て思わず頬が緩む。



――そろそろ俺を見ろって



お盆に康が告げた言葉を思い出して、私は頬が熱くなるを止められなかった。
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