二人の物語
ふぅ、と溜息をつくと、それに気づいた翔が視線をこちらに向けた。

「何、俺に見惚れちゃってんの沙奈ってば。付き合いたてで浮気ですかぁ? こっの女子大生っ」

……お前も女子○生にブランドを感じる方か、男子大学生。

つい呆れ顔で眉間に皺を寄せれば、それを伸ばそうとでもしたのか翔がその指を額に近づけてきた。


「……触るな。これは、俺の」

「わっ」


もう少しで翔の指が触れる寸前、ぐいっ、と後ろに体を引かれて仰け反った。
慌てて足を動かして、バランスをとる。


「何すんの、康!」

自分の肩に置かれている手を辿れば、それは隣に立つ康のもので。
こけなかった自分の反射神経を、盛大に褒めてやりたい!

康はちらりと私に視線を向けたけれど、すぐに逸らされてしまった。
途端、目の前の同じ顔が我慢できないとばかりに盛大に噴出した。


「そこ!? ねぇ、沙奈! 気になるのはそこなわけ?」

「は?」


隣の柱を叩きながらひーひー笑う翔を、怪訝そうに見上げる。
大丈夫かしらこの子、ちょっと見ない内に脳味噌カビたんじゃ……。
心配そうな私の表情に気が付いたんだろう。
翔はお腹に手を当てて笑いを収めようと、深呼吸を繰り返した。
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