祐雫の初恋

(祐雫さん、あなたの所為で、

 わたくしが悩ましいのに、

 それを憂えてくれるなんて、

 妙なご縁ですこと)


 麗華は、こころの中で呟いた。



「わたくしと琳子は、外国へ留学することになった

 慶志朗との婚約を解消したの。

 琳子は、この秋にお見合い相手と結婚してよ」


 麗華は、大きな溜息をついた。



「麗華さま、まぁ、そのような」


 祐雫は、思わず麗華の手を握りしめる。

 麗華の溜息が自身の所為だとは知らずに

麗華に元気を取り戻してもらいたかった。



(自分のことのように瞳を潤ませて、

 憎くてしようがないけれど、

 どこか憎めない娘だわ)


 麗華は、祐雫を見つめた。



 色白の肌に桜葉の緑が反射して、乙女の表情の奥に、

これから美しく成長する片鱗が覗(うかが)われた。

 そして、慶志朗が祐雫を大切に守り育てようと

しているような気さえしてきた。


 再三会わずとも、気持ちが通じているのであろう。


 慶志朗は、祐雫の若い枝を自由に伸ばしているのかもしれない。

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