祐雫の初恋

「桜河さまに数学を教えていただきたくて。

 祐雫さんにお聞きしたのでございますが、

 桜河さまでございましたら解るのではと

 薦めてくださいましたので」


 環は、臆することなく優祐を見つめて話しかけた。


「祐雫に解けない問題が、ぼくに解るかなぁ。

 祐雫の薦めなら、断るわけにもいかないね。

 図書館で見てあげよう。

 じゃあ、杉、山野、また明日」


 優祐は、一緒に帰っていた級友たちに手を振り、環に微笑む。


級友たちは、囃(はや)し立てるように優祐の肩を叩いて帰っていった。


(私は、数学の問題なんて質問されてございませんし、

 私に解けない問題が、優祐に解けるわけがございませんのに)


 祐雫は、こころの中で呟いて、

探偵さながら、気付かれないように、優祐と環の後を追った。



 優祐は、資料室の奥手にある学習室へ環を誘った。



 学習室は、無人でひっそりと静まり返っていた。


< 113 / 154 >

この作品をシェア

pagetop