祐雫の初恋

「優祐さま、この問題でございます」


 環の声に優祐は、現実の世界に連れ戻された。


 環の呼び方が「桜河さま」から、「優祐さま」に変わっていた。


 優祐は、気付かずに設問に頭を巡らせていたが、


書架の後ろで本を探している振りをしている祐雫は、すぐに気付いて


(まぁ)


と呟いた。



(環さんって、大人しい性格と思ってございましたのに、


 学園通りの皆がいる前で、優祐に堂々と声をおかけになるし、


 馴れ馴れしく優祐さまなんて、名前でお呼びになるなんて、


 結構大胆でございましたのね)


 祐雫は、本の隙間から環の表情を覗った。



 女子の間では見せない甘えを含んだ笑みを湛えていた。



 祐雫は、歯痒いような不思議な気分に陥っていた。


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