祐雫の初恋
「桜河さん」
図書館員が名を呼び、優祐と祐雫は、同時に返事をした。
「はい」
祐雫は、返事をしてから後悔する。
「先日ご希望された図書が入っています」
優祐は、図書館員の視線を辿って、書架の後ろを覗った。
「はい。ありがとうございます」
祐雫は、仕方なく優祐と環に気付かない振りをして、受付に向って歩いた。
「祐雫、来ていたの」
優祐は、驚いて祐雫の側に歩み寄った。
「あら、優祐、偶然でございますわね」
祐雫は、たった今、優祐に気付いたふりを装った。
そして、ゆっくりと環を窺(うかが)い見た。
環の鋭い視線とぶつかり、祐雫は、思わず視線を逸らせた。
束の間のしあわせな時間を祐雫に邪魔されて残念に感じながら、
環は、机の上を片付けて顔を出した。
「祐雫さま、お兄さまに数学を教わっていましたの。
優祐さま、ありがとうございました。
お陰様でとてもよく解りました。
また、教えてくださいね。
では、私はこれで失礼します。
御機嫌よう、さようなら」
環は、優祐に深々と一礼して、
祐雫には、不服そうな会釈をすると、図書館を出た。
「さようなら」
「御機嫌よう」
祐雫は、環の態度にむっとしていた。