祐雫の初恋
優祐は、座席に戻って鞄を持つと、祐雫と共に図書館を出た。
環は、図書館の並木の陰から
(いつも優祐くんの横には、祐雫さんが張り付いているのだから)
と、仲良く並んで帰っていく優祐を熱い想いで見送ると
同時に祐雫には、嫉妬の視線を投げた。
祐雫は、刺さるような痛みを感じて、後ろを振り返る。
「ごめんなさい、優祐。
お邪魔をしてしまったようでございますね。
環さんを送って差し上げなくてもよろしゅうございましたの」
祐雫は、優祐と環の親近に戸惑いながらも、平静を装っていた。
「邪魔だなんて、
そのように考えなくてもいいよ。
数学の問題を教えていただけだから。
それに送っていく理由もないだろう」
優祐は、祐雫と並んで歩きながら、祐雫の香りを嗅いでみる。
祐雫からは不思議と香りがしなかった。
ふと気がつくと、祐雫の表情が翳(かげ)っていることに気付いた。
「藤澤さんって、
呑み込みが早いのでぼくが教えなくてもいいくらいだったよ」
優祐は、環の心情に全く気付いていなかった。