祐雫の初恋

 優祐は、座席に戻って鞄を持つと、祐雫と共に図書館を出た。



 環は、図書館の並木の陰から


(いつも優祐くんの横には、祐雫さんが張り付いているのだから)


と、仲良く並んで帰っていく優祐を熱い想いで見送ると

同時に祐雫には、嫉妬の視線を投げた。



 祐雫は、刺さるような痛みを感じて、後ろを振り返る。



「ごめんなさい、優祐。

 お邪魔をしてしまったようでございますね。


 環さんを送って差し上げなくてもよろしゅうございましたの」


 祐雫は、優祐と環の親近に戸惑いながらも、平静を装っていた。

 
「邪魔だなんて、

 そのように考えなくてもいいよ。
 

 数学の問題を教えていただけだから。


 それに送っていく理由もないだろう」


 優祐は、祐雫と並んで歩きながら、祐雫の香りを嗅いでみる。

 祐雫からは不思議と香りがしなかった。


 ふと気がつくと、祐雫の表情が翳(かげ)っていることに気付いた。


「藤澤さんって、

 呑み込みが早いのでぼくが教えなくてもいいくらいだったよ」


 優祐は、環の心情に全く気付いていなかった。

< 119 / 154 >

この作品をシェア

pagetop