祐雫の初恋
「祐雫さん、楽しんでいますか。
今宵は一段と麗しいですね」
慶志朗は、恭しくお辞儀して、祐雫の手を取った。
燕尾服姿の慶志朗は、何時になく大人びている。
「嵩愿さま、お久しゅうございます」
祐雫は、慶志朗の手に触れて、体温を感じ、
優しい乙女の微笑みで応じる。
慶志朗にしか見せない微笑みだった。
「随分とご無沙汰していますが、
間もなく一段落するので、
ゆっくりと祐雫さんのお相手ができそうです。
ぼくのことを忘れてしまったのではありませんか」
賑やかな会場の中にあって、祐雫には、慶志朗の声だけが聞こえていた。
「まぁ、慶志朗さま。
そのようなことはございません。
お忙しいことは、重々承知してございます」
祐雫にとっては、夢ではなく、
実物の慶志朗が目の前に立っていることが最大の重要事項だった。