祐雫の初恋

「あっ、失礼」


 佇む祐雫にぶつかった藤原真実(まさみ)は、

手にしたワインを祐雫のドレスに誤って零し、

胸ポケットから取り出したチーフで、祐雫のドレスを拭う。


「他所見をしていました、申し訳ない」


 真実は、恐縮した表情で、丁寧に祐雫のドレスを拭った。


「こちらこそ、申し訳ございません。

 私がいたしますので、

 どうぞお気遣いなさいませんように」


 祐雫は、小さなメモをバッグの中へ大切に仕舞って、

代わりにハンカチを取り出した。


「お似合いのドレスに

 染みができてはいけませんので」


 真実は、てきぱきと飛沫を拭い取った。


「応急処置はしましたが、

 今度代わりのドレスを贈らせていただきます」


 真実は、顔を上げて、祐雫を見つめる。


「そのような必要はございません。

 お心遣いありがとうございます」


 祐雫は、恐縮して頭を下げた。


「アクシデントで、

 自己紹介を忘れるところでした。

 藤原真実です」


「桜河祐雫でございます」


 祐雫は、慶志朗の余韻から醒めて、相手を見つめる。


 甘い顔立ちの青年が祐雫に微笑みかけていた。

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