祐雫の初恋

 慶志朗は、祐雫の手を引いて、庭の奥へと進む。


 石畳が途切れると幾何学模様が施された石庭が広がっていた。


「ぼくの祖父の屋敷です。


 広縁で冷たいものでもいただきましょう。

 喉が渇きましたから」


 慶志朗は、勝手知ったる我が屋敷のように、

祐雫の手を引いて、石庭を横切っていく。


「突然によろしいのでしょうか」


 祐雫が躊躇しているにもかかわらず、

慶志朗は、石庭を進んで、広縁へと祐雫を伴った。


 祐雫は、石庭の模様に足跡が付くのを気にして、

爪先立って慶志朗の足跡の上を歩いた。


「婆さま、慶志朗です。


 喉が渇きましたので、冷たいものを二つお願いします」


 慶志朗は、広縁から奥の座敷へと大きな声をかける。


 間もなく座敷の障子が開いて、廊下から気品漂う銀髪の婦人が現れた。


「まぁまぁ、慶志朗さん、いらっしゃいませ。


 あら、お客さまとご一緒でございましたか。


 お客さまは、表玄関からお連れなさいませ。


 お嬢さまがお困りでございましょう」


 慶志朗が『今度、連れて参りましょうか』と言って以来、

ようやく実現した祐雫との対面だった。


 
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