祐雫の初恋

「深窓の令嬢なのですね」


 慶志朗は、興味津々で、

祐雫の顔をまじまじと見つめた。


「いいえ、そのようなことはございません。

 ただ……」


 慶志朗の大きな瞳で見つめられて、

祐雫は、頬を薄紅色に染めて俯いた。


 勉学に勤しんでいたとは言えなかった。


「桜河電機の会長や社長は、このように可愛い祐雫さんを

 人目に触れさせたくなかったのでしょう。

 それとも、すでに許嫁がいらっしゃるのですか」


 慶志朗は、ゆったりとした微笑みを祐雫に投げかけた。


「いいえ、

 そのような御方はございません」


 祐雫は、慌てて否定しながらも、

森の神秘的な時間の流れと

慶志朗の穏やかさに包まれて、

不思議な寛ぎを感じていた。

慶志朗は、紅茶を飲みながら、

避暑地の森の樹々に纏わる楽しいはなしを語った。


 寛いだ気分の祐雫は、慶志朗のはなしに

うっとりと酔いしれていた。

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