祐雫の初恋

「婆さま、

 暑くて、玄関に回る気になれませんでした。


 桜河祐雫さんです。


 祐雫さん、ぼくの祖母です」


 慶志朗は、祐雫の両肩に手を添えて、千子へ祐雫を紹介する。


「はじめまして、桜河祐雫と申します。

 どうぞよろしくお願い申し上げます。


 初めてお伺いいたしますのに、

 突然に、それもお庭から、

 お邪魔いたしまして、申し訳ございません」


 祐雫は、紗合わせの秋草文様の着物を涼しげに着こなす千子に

気品を感じ、憧れのまなざしを向ける。


「慶志朗の祖母の千子(ゆきこ)と申します。


 祐雫さん、ようこそいらっしゃいました。


 初めての方を裏門からお連れするなんて、

 びっくりなさったでしょう。


 さぁ、冷たいものが届きました。


 おかけなさいませ」


 千子は、女中の希代(きよ)が藺草(いぐさ)の座布団を広縁に敷き、

御膳に載せたかき氷を運んできたので、慶志朗と祐雫に勧める。



「祐雫さんを婆さまに一度紹介したくて、連れて参りました」


 慶志朗は、広縁に腰かけて、祐雫にも座るように促した。



 慶志朗は、大好きな祖母・千子と祐雫の対面がどのように進むのか

興味津々であった。

< 140 / 154 >

この作品をシェア

pagetop