祐雫の初恋
「婆さま、
暑くて、玄関に回る気になれませんでした。
桜河祐雫さんです。
祐雫さん、ぼくの祖母です」
慶志朗は、祐雫の両肩に手を添えて、千子へ祐雫を紹介する。
「はじめまして、桜河祐雫と申します。
どうぞよろしくお願い申し上げます。
初めてお伺いいたしますのに、
突然に、それもお庭から、
お邪魔いたしまして、申し訳ございません」
祐雫は、紗合わせの秋草文様の着物を涼しげに着こなす千子に
気品を感じ、憧れのまなざしを向ける。
「慶志朗の祖母の千子(ゆきこ)と申します。
祐雫さん、ようこそいらっしゃいました。
初めての方を裏門からお連れするなんて、
びっくりなさったでしょう。
さぁ、冷たいものが届きました。
おかけなさいませ」
千子は、女中の希代(きよ)が藺草(いぐさ)の座布団を広縁に敷き、
御膳に載せたかき氷を運んできたので、慶志朗と祐雫に勧める。
「祐雫さんを婆さまに一度紹介したくて、連れて参りました」
慶志朗は、広縁に腰かけて、祐雫にも座るように促した。
慶志朗は、大好きな祖母・千子と祐雫の対面がどのように進むのか
興味津々であった。