祐雫の初恋
「ごめんくださいませ」
祐雫は、深々とお辞儀をして、縁に腰かける。
真夏の日差しが、縁の屋根に遮られつつも、祐雫に光を集めていた。
「婆さま、夏はかき氷に限りますね。
さぁ、祐雫さんも遠慮しないでどうぞ」
千子の勧めるかき氷は、葡萄や桃、夏蜜柑などの果物で彩られていた。
「はい。いただきます」
祐雫は、美味しそうにかき氷を食べる慶志朗の姿に微笑むと、
初対面の千子に笑顔を向けて、両手を合わせた。
「どうぞ、召し上がれ。
産地から届いたばかりの果物でございますのよ。
この通り、慶志朗さんは、型破りでございましょう。
祐雫さんは、驚きの連続でございましょう」
千子は、想像以上に可愛らしい祐雫に目を細めた。
慶志朗の母である嬉子(きこ)からは、祐雫の勝気な噂を耳にして、
好意的ではないように話を聞いていたのだが、
可愛い孫の慶志朗が、初めて自分から連れて来た祐雫に
一目で好感を持った。
それと同時に、洗練された麗華や琳子とは、全く異なる魅力を感じた。
「はい。
毎回慶志朗さまには、驚かされてばかりにございます。
千子さま、果物の酸味とシロップの甘みが相まって、
美味しゅうございます」
祐雫は、穏やかな千子の微笑みに惹き込まれていた。
「失礼いたします。
奥さま、菱川さまがいらっしゃいました」
希代が、奥の廊下の障子を開けて、千子へ声をかける。
「すぐに参ります。応接間へお通しして」
千子は、希代に指図して、慶志朗と祐雫にゆったりと微笑む。
「慶志朗さん、お客さまとのお約束がございますが、
しばらくゆっくりなさいませ。
祐雫さん、後ほど、お昼をご一緒いたしましょう」
千子は、祐雫に微笑むと奥の廊下へと消えた。