祐雫の初恋
「子どもの頃、よくここに上って、
天下を取った気分になって過ごしました」
慶志朗は、爽快な笑顔を青空に向ける。
祐雫は、慶志朗を見上げて、その背後の太陽と同じ眩しさを感じる。
「まぁ、天下取りでございますか」
祐雫は、見晴らし台の手擦りに掴まって、涼風に身を任せる。
夏の暑さが治まり、黒髪とワンピースの裾が風に靡いて、
青空を飛んでいる気分を味わう。
それと同時に、慶志朗が天下取りの気分を味わったその少年時代が
理解できる気持ちになっていた。
「あちらのきらきらしてございますのは、海にございますね。
宝石のように輝いて美しゅうございます。
世界中の財宝を手中にいたした気分にございます」
慶志朗は、祐雫の伸びやかな態度に満足していた。
祐雫が日焼けを気にせず、太陽の下で明るく輝いている様子に好感を持ち、
祐雫が取り繕わずに、何時でも祐雫らしくあってほしいと願う。
慶志朗も祐雫とともに、手摺りから身を乗り出して、涼風に吹かれる。
二人の時間は、ゆるやかに流れていた。