祐雫の初恋
祐雫は、虹を背景にして、真剣な表情で見つめる慶志朗に応えて、
頷きながら返事をする。
「はい、嵩愿さま。
大切なおはなしにございますか」
何時もの掴みどころのない慶志朗の雰囲気とは、
どこか違うように感じられた。
「実は、八月の半ばにニューヨークへ発ちます。
当分の間、祐雫さんとはお逢いできません」
「八月半ばにございますか。
もうすぐにございますね」
祐雫は、柔らかな笑みを浮かべて、慶志朗の左腕に寄り添った。
慶志朗が、淋しげな表情を見せてくれたことに嬉しさを感じていた。
以前に麗華から、慶志朗の留学のことを聞いていたので、
祐雫には、ある程度の覚悟ができていた。
淋しさが込み上げるのは確かだが、
風のような慶志朗を小さな場所に閉じ込められないことは、
重々承知していた。
「短くても二年間は、滞在することになります」
慶志朗は、祐雫の二年間を束縛できないと遠慮していた。
「二年にございますか。
祐雫は、大人になってございますね」
祐雫は、二年後の自分を想像していた。
(麗華さまのような淑女になれてございましょうか)と。
ふと、母の祐里であれば
(お側に居とうございます)
と、念じたに違いないと父母の愛の形を思い起こしていた。