祐雫の初恋
残り香
慶志朗は、東野邸の別荘が近付いた所で
立ち止まると、祐雫から手を離して問いかけた。
「滞在は、いつまでですか」
「明日の午後に、お迎えが参ります」
祐雫は、別れがたく、立ち止まって、
慶志朗を瞳に焼き付けるように見上げる。
「じゃあ、これでお別れということですね」
慶志朗は、明日も祐雫をお茶の時間に
招待したいと考えていた。
「はい。
嵩愿さま、今日は素敵な時間を
過ごさせていただきまして、
ありがとうございました。
とても楽しゅうございました」
祐雫は、名残惜しく慶志朗を見つめた。
『じゃあ、これでお別れということですね』
という慶志朗の言葉が胸に
突き刺さっていた。