祐雫の初恋
「静かで涼しくて、まるで静謐を取り戻した神の森のようでございます」
緑の樹々が祐雫を取り巻いていた。
祐雫は、深緑の森に神の森を重ねる。
神の森に一月近く滞在していた優祐は、夏休みになると
二週間程、神の森に里帰りしていた。
祐雫も誘われるのだが、
祐雫にとっての神の森は、暑い渇きとの闘いだった長い道程と
湖に受胎した異次元の感触が思い起こされて、
躊躇するものがあった。
それでいて、優祐が帰って来てから、壮大な神の森の話を聞くと、
行かなかったことを後悔する気持ちになったものだった。