祐雫の初恋
「こんにちは、嵩愿さま。
先日はどうもありがとうございました」
祐雫は、不意の再会に驚いて、
ようやく挨拶を返しながら、
優祐の後ろに下がった。
優祐は、祐雫が慶志朗を見知っていたことに驚きながら、
祐雫が突然大人しい態度をとったことが不思議に思えた。
「贈りものですか」
慶志朗は、優祐と祐雫を同時に見て、良く似ていると感心していた。
「はい、おじいさまのお誕生祝いです」
いつもなら、我れ先に答える祐雫が黙っているので、
優祐が返答した。
「お二人の意見が分かれていたのですね」
優しい瞳で慶志朗は、祐雫を見つめる。
「はい。
ぼくは、おじいさまは、おばあさまのお好きな薔薇色の格子が
お似合いだと申しているのに、
妹は、空色の格子がいいと申しますので」
優祐は、祐雫が口を挟まないので、拍子抜けした気分だった。
「優祐くんの方が押され気味でしたね」
慶志朗は、祐雫の瞳を真っ直ぐに見つめながら微笑んだ。
「妹は、言い出すと聞く耳を持ちませんので、
困ってしまいます」
優祐は、慶志朗に返答しながら、
祐雫のもじもじした態度に少しずつ事情が飲み込めて来た。
祐雫は、避暑地で、慶志朗と出逢って、恋をしたらしい。
「そのようなことはございません」
優祐の後ろで祐雫は、小さな声で否定した。