祐雫の初恋
お茶のじかん
「どうぞ。
一足先に家族は帰ってしまって、
管理人さんとぼくだけなのでご遠慮なく」
慶志朗は、テラスへ続く階段を上る祐雫を気遣って
手を伸べて導き、
テラスの椅子を引いて勧めた。
「ご丁寧にありがとうございます」
祐雫は
(なんて紳士的な御方でございましょう)
と、勧められるまま椅子に腰かけた。
「しのさんというお名前でございますか。
我が家の婆やも紫乃と申しますの」
祐雫は、婆やの紫乃を思い、慶志朗に親しみを感じた。
「父の代から、別荘を管理してもらっているので、
ぼくは、物心ついた頃から、
詩乃さんには、頭が上がりません。
母以上に詩乃さんの躾は厳しかったものです。
そちらのしのさんは」
慶志朗は、少年のように照れながら微笑んだ。
「祖母が子どもの頃からの姉やでございましたの。
生き字引のような優しい婆やでございます。
このワンピースも紫乃のお手製でございますの」
祐雫は、受け答えをしながら、
慶志朗の笑顔に引き寄せられていく。