祐雫の初恋

「通常、良家の子息・子女は、計略的に縁組をさせられる運命でしょう。

祐雫さんには、許婚はいないとおっしゃいましたね」


慶志朗は、そよ風に靡く祐雫の髪の柔らかな揺らぎの先を見つめた。


「はい。

 そのような御方はございませんし、

 考えたこともございませんでした」


 祐雫は、しっかりと慶志朗の瞳を見つめて答えた。


「後継ぎの優祐くんにもいないのですか」

 
 慶志朗は、不思議な感情が胸の中に渦巻くのを感じる。


「はい。

 父は、結婚に関しては、自由で寛大なお考えでございますの。

 ご自身が母との結婚で、真実の愛を貫かれましたので……

 祖父母も父母も初恋を成就してございます」


慶志朗は、祐雫の手の柔らかな温もりを感じていた。

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