祐雫の初恋
慶志朗の決意
慶志朗は、社内晩餐会が終わって自宅に戻ると、
機嫌のよい父へ話を切り出した。
「父上、大切なお話があります」
社内晩餐会では、慶志朗の部が脚光を浴びて、父の機嫌は上々だった。
話を切り出すには、今夜しかないように思えた。
「褒美でもほしいのかね、慶志朗。
まぁ、座ってゆっくり話を聞こう」
父は、満面の笑みで慶志朗に椅子をすすめた。
「父上、ぼくの結婚の話ですが、
もうしばらく延期していただきたく存じます。
父上は、ご壮健ですし、ぼくは、未だ若輩者です。
しばらく独身のままで、様々な経験を積みたいと思います」
慶志朗は、椅子に腰かけると、冷静沈着に父へ話を切り出した。
「慶志朗、結婚しても経験は積むことができるのではないかね。
それとも麗華くんや琳子くんでは、物足りないとでも云うのかね」
相好を崩していた父の表情が忽ち硬くなった。
父が不機嫌な時の特徴である眉根が、山型に変化していた。
「父上、お二人ともぼくには、身に余るほどの女性です。
父上が嵩愿家の行末を熟慮されて、
縁談を進めていらっしゃるのは重々承知しております。
ただ、今のぼくは、本当に麗華さんや琳子さんと結婚して、
後悔しないのか、疑問に思えて仕方がありません」
「慶志朗、世間を甘く見過ぎているのではないかね」
父は、凄まじい剣幕で、テーブルを叩いた。