祐雫の初恋

「お二人とも後悔するようなお嬢さまではございませんわ。

 お付き合いをなさって、お分かりでしょう。


 まさか好きな女性でもいらっしゃるの」


 慶志朗に掴みかかりそうな剣幕の父を制するように、母が口をはさんだ。


「いいえ。

 ただ、ぼくの結婚相手は、これから様々な体験を経て行くうちに

 自身で見つけて決めたいのです」


 慶志朗は、父の剣幕の渦中にありながら、

祐雫の笑顔を思い浮かべていた。


「まぁ、慶志朗さん、

 麗華さんや琳子さん以上の方がいらっしゃるとは思えませんわ。

 慶志朗さんは、まだ若いのでお分かりにならないのでございましょうが、

世の中、愛や恋では、回らないのでございます」


 母は、呆れた顔を慶志朗に向けた。

 今まで後継ぎとしてそれなりの教育を施し、

把握していた筈の慶志朗が、何処か遠くへ行ってしまったような

淋しさを感じていた。


「ほう、両親が決めた許婚以上で、

 それなりの相手を見つけるというのだね」


 父は、厳格な表情で、苦々しく言い放った。


「はい」


 慶志朗は、瞬時に返答する。



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