祐雫の初恋
「慶志朗、
今成功しているのは、自身の努力もあるが、
嵩愿一族の後ろ盾があってのことと肝に銘じなさい。
後ろ盾がなければ、社会では誰にも相手にされないのが常だ。
増して、麗華くんや琳子くんの一族まで敵に回しては、
財界に見放されたのも同然だ。
これから先の人生はないものと覚悟して、重々考えなさい」
父は、慶志朗の青年故の甘さに溜息を吐いた。
「そのためにもお願いがあります。
よく考えるための時間をぼくにください。
大学を卒業しましたら、海外留学に行かせてください。
留学費用は、自身で賄います」
「ふむ。
ちょうど、ニューヨーク支社企画室長の椅子が空くことになっておる。
ならば、尚更身を固めて行く方がいいと思うのだが……
様々なパーティでは夫婦で出席のほうが様になる。
慶志朗、そういえば音楽会に招待した娘がいたそうだな……
まさかその得体のしれぬ娘と結婚すると言い出すのではないだろうね」
父の頭の中では、様々な思いが過(よぎ)っていた。