祐雫の初恋
「得体のしれぬなどということはありません。
彼女は、桜河電機のご息女です」
慶志朗は、祐雫のことを得体のしれぬと誤解されたことに憤りを感じた。
「桜河電機……
まぁ、お嬢さまは、確か未だ高校生で、
変わり者と噂されてございましょう」
母は、思いも寄らなかった祐雫の名に驚きを隠せなかった。
「海外でも成功を収めている桜河電機か。
今まで我が社と関わりはなかったが、
あの企業は、神がかり的に業績を伸ばしているし、
強運を呼び込む力があることは確かだ」
父は、桜河光祐の輝きを思い浮かべて、しばし損得を考えていた。
「彼女は、婚約破棄とは関係ありません。
それに変わり者などとは、噂に過ぎません。
ぼくは、しばらく世界をこの眼で見て、
納得して結婚相手を決めたいだけです。
ですから、麗華さんと琳子さんとの婚約は白紙に戻したいのです。
その上で、再び出会うことがあれば、
将来お付き合いさせていただくことになるやもしれません」
慶志朗は、父母の意見に従う気がなく、
今回ばかりは自身の意見を通す覚悟ができていた。
「慶志朗さん、女性は花の時期がございますのよ。
あなたの身勝手で待っていただくわけには参りませんわ」
母も勿論意見を曲げない。
「はい、重々承知しております」
「慶志朗、
婚約の件は、会長夫妻も楽しみにしていらっしゃったことなので、
まずは明日にでもお詫びに伺ってきなさい。
そして、会長の許しが出なければ、潔く諦めなさい」
父は、祖父なら慶志朗を上手く治めてくれることに期待した。
「わたくしからも、お義母さまに反対するようお願い申し上げなくては……」
母は、慶志朗の気持ちが分からないとばかりに
首を横に振り、溜息をついた。