祐雫の初恋
「許婚嬢にとっては災難だろう。
そろそろ結納の儀でもと考えていたところに
破談宣告されるのだからなぁ」
慶之丞は、再び腹の底から面白い態で笑いを零した。
「ところで、許婚嬢には何と申し開きをするのだね」
慶志朗は、祖父の真の笑顔を受けて、
(やはり、爺さまは、ぼくの味方をしてくださるようだ)
と安堵する。
「誠心誠意謝るつもりです」
慶志朗は、真剣な表情で答えた。
「単純だな。
許婚嬢は納得してくれるかな。
竣太朗が怒り治まらぬ体(てい)で、電話をかけてきたぞ」
慶之丞は、竣太朗の権幕を思い出していた。
「慶志朗や、
婆さまは一日も早く曾孫を抱きとうございます」
祖母・千子(ゆきこ)は、お茶を出しながら、慶志朗を見詰めた。
「婆さま、ぼくは、まだ二十一なのですから、
結婚はまだまだ先の話です。
婆さまには長生きをしていただかなくては。
どうして父上はご壮健なのに、
ぼくの結婚を急ぐのでしょうか」
「竣太朗は、地道な性格だから、慶志朗の奔放さが恐ろしいのだろう。
糸の切れた凧のように会社を見捨ててどこかに行ってしまう
不安でも持っておるのだろう」
「見捨てて、どこに行くというのですか」
慶志朗は、思ってもいなかった言葉に驚きの声を上げる。