祐雫の初恋
慶志朗にとって、慶之丞と千子と過ごす時間は、
心置きなく素直になれる時間でもあった。
幼い頃より、父母には話せないことでも、
祖父母には何でも話せたものだった。
「そういえば、嬢は、知らないが母上を存じておる。
随分以前だが、千子が晩餐会で体調を崩した時に
介抱してもろうてな」
「さようでございました。
母上さまは、ほんに慈悲深いお方でございました。
手を握ってくださって、とてもよくしていただきました。
あの方のお嬢さまでしたら、
お優しいお嬢さまでございましょう」
千子は、祐里の介抱の様子を思い出して、
ほんのりとした気分に浸った。
「竣太朗は、表に出てこない嬢のことを心配しておった。
本当に心配性な奴じゃ。
慶志朗は、まだ若い。
女性経験は、数多く積むのだぞ」
「まぁ、爺さま、
慶志朗にそのような悪知恵をお付けになりませぬよう」
千子は、慶之丞のかつての女性関係を振り返り、首を横に振る。
「それはさておき、慶志朗さん、
お近付きってことはこれから進展がございますの」
気を取り直して、千子は、慶志朗と祐雫の仲に期待を籠める。
「今度、連れて参りましょうか。
別荘の詩乃さんに気に入られたくらいですから、
婆さまにも気に入っていただけると思います」
慶志朗は、半分冗談のつもりで呟いた。
「まぁ、詩乃に……それは、楽しみですこと」
千子は、まだ見ぬ祐雫へと思いを馳せた。