祐雫の初恋
「その必要はございません。
車を待たせてございますし、
慶志朗さまの誠意は、わたくしから両親に伝えさせてくださいませ。
慶志朗さまが、両親に頭をお下げになるご様子を
見とうはございませんもの。
悲しい想いは、ここに置いて参ります」
琳子は、立ち上がると慶志朗の胸に縋(すが)りついた。
慶志朗は、呆気にとられつつも、そのまま琳子を抱えていた。
慶志朗は、避暑地の雷鳴で、祐雫を胸に抱いた時のことを思い出していた。
「ありがとうございます。
一度だけ慶志朗さまに抱かれとうございました。
琳子一生の思い出になりました。
では、ごめんくださいませ」
琳子は、背伸びをして、慶志朗の頬に口づけすると、
振り向かずに茶室を出て行った。
慶志朗は、琳子の大胆な行動に動転して、
しばらくそのまま立ち尽くしていた。