定義はいらない
タクシーはまだ夜更けにならない街を走っていた。

私の携帯に、太朗ちゃんからの返信はまだ来ていなかった。

いつもならすぐに返事が来るのに。

外勤先の病院で何かあったのだろうか。


「佐々山先生と早川さんってこの後どうなるんですかね?」

呑気なこと言ってくれると思った。

明日、自分の上司が来る部屋に今向かっているというのに。

「どうですかね。」

「うまくいくのかなぁ。」

「どう思います?」

「あの人、人として大したことない人間だから。
 俺はあんまりおすすめしないけど。」

「え?」

耳を疑った。

「それ佐々山先生のことですか?」

「そう。」

「どういう意味ですか?」

「まぁね。」

はっきりした返答を避けて松木先生は黙った。

「吉岡先生はどうですか?」

「あの人は、頑張ってるよね。」

「頑張ってるんだ。」

「うん。頑張ってるなって思う。」

超、俺様発言じゃん。

そう思うとちょっと太朗ちゃん、ざまぁ見ろって思って笑えた。
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