定義はいらない
「先生はなんで前の奥さんと別れたんですか?」

「合わなかったからかな。」

「じゃあ、なんで結婚したんですか?」

「その時はこの人かなって思ったし、子どもができたからね。」


たしか前の奥さんはうちの病院の看護師だったって聞いた。

懲りない人だな、と思う。

「今の彼女は何してる人なんですか?」

「秘書。」

「美人なんだ。」

「周りはそう言うね。
 オグシオのどっちかに似てるって誰かが言ってたよ。」


オグシオって聞いたことあるけど、私にはどちらの顔も思い浮かばない。

そして、今後オグシオの顔を見たいとは思わないだろうと思った。

なんとなく。


「君も可愛いよ。」


ドキンとする。

何歳になっても嬉しい言葉。

「可愛い」の言葉はいくつになっても女子の大好物に違いない。


「またまた。そんなこと言っちゃって。」

おそらく顔には嬉しい気持ちが全面に出ていたに違いない。

太朗先生はふと私の頭を撫でた。


私はそれを拒否しなかった。


気づけばグラスはまた空になっていた。


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