定義はいらない
夜勤明けはいつもなら眠くて仕方がない。

夕方から朝9時までの勤務で

お風呂にも入れなければ

顔さえ洗えない。

ずっと立ったり座ったりを繰り返していて

足どころか全身が浮腫む。

人の命を助けて自分の命を縮めているって思う。


普段なら仕事が終わったら家に一目散に帰って

そのままベッドに倒れこむところだが

今日はそういうわけにはいかない。


私は松本駅行きの高速バスに乗らなければいけない。


新宿駅発。


荷物は夜勤の前に一通り揃えてキャリーバッグに入れたけれど

まだ足りないものがある。

それは化粧品だ。


シャワーに急いで入って

髪を念入りにブローして化粧にいつもより時間をかける。


どうせ長時間の高速バスで

落ちるのもグシャグシャになるのも分かってはいるけれど

せずにはいられない。

せずにはいられないのだ。


化粧品もドライヤーもすぐにキャリーバッグに詰め込んだ。

これから2泊3日の予定だから

荷物はこんなものだろう。

たぶん。

余計に下着と服を1日分入れる。

何があるか分からないし。

部屋中を見回して

ガスも電気も見直して

私は部屋の鍵を締めた。

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