定義はいらない
沙織の周りにくっついていたら

六人までは難なく名前は埋まったが

あともう少しというところで

私は沙織を見失った。


「ねぇ。」


坊主頭の男性が話しかけてきた。

「名前、交換しない?」

「あっはい。」


これはラッキーとばかりに食いつく。


「俺、高橋亮。」

「あっ。私、鈴木杏子です。」

「さっき真ん中で踊ってたでしょ?」

「はい。恥ずかしいですね。」

「良かったよ。俺、『きょーこー!』って叫んだんだけど聞こえた?」

「仕込みでした?」

「そうそう。高瀬がさ、やれって名前教えておいてくれて。」

そう言って壇上でニコニコ笑っている新郎を指差した。

「やっぱり。」

「嫌だった?」

「恥ずかしかった。」

「ははは。」


満面の笑み。

少し色黒で、がっちりした体格。

きっと新郎の野球部の友達だ。

いかにも野球少年でしたって感じ。


「ごめんね、恥ずかしい思いさせて。でも良かったよ。」

「ありがとう。」

「こちらこそ、名前ありがとう。」


そう言って彼は去って行った。


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