定義はいらない
当直医室は4畳ほどのスペース。

置いてあるのは机、その上に小さいテレビ。

あとはパイプの2段ベッド。

「誰かに見られなかった?」

「大丈夫。」

机には本が開かれている。

「何読んでるんですか?」

「ロシア語の文法書。」


医学書じゃないところが

太朗ちゃんらしくて、私は切なくなってしまう。

ベタな言い方だが、胸が締め付けられる様だ。

あぁ、どうしよう。

こんなにも彼に夢中なんて。


椅子に座った彼はまだ白衣を着ている。

くたびれた白衣。

シャツはピリッとのりが効いている。

奥さんがかけたアイロン。

丁寧にかけられている。


この人は愛されている。


そう思った。
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