定義はいらない
私の中で果てた後、

ティッシュを渡しながら

「最後の生理いつ?」と聞いた。

私は考えて、嘘をつく。

「もうすぐ来ます。」

「そうか。」

安心したように笑った。


本当は、排卵日に近かった。

生理の2週間後。

まがりなりにもお互い医療者。

2人の駆け引き。


「このままここで泊まって行く?」

「え?ここで?」

「そう。」

「私、明日休みだから。」

「だったらいいじゃない。」

「どうやって帰るんですか?」

「始発を待って始発で帰る。始発ならまだ日勤の看護師も来ない。」

「確かに。」


少し考えて

「帰ります。」

と身支度を整える。

破られたストッキングを鞄に入れる。

ここに残しておくのはまずい。


「残ってたら朝まで一緒にいられるのに。」

「明日、用事があるので。」


残っていたい。

でも、残っていられない。

それに、本当は太朗ちゃんもそんなこと望んでいない。


嘘つき。



「残念だな。」



そう言って彼は立ち上がると服を着てドアを開けた。



「誰もいないから。今なら大丈夫。」

私の決断は揺らぐ。

朝を一緒に迎えたい。




「じゃあ、また。」



そう言って廊下に出て後ろを振り返らず

エレベーターまで小走りした。
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