定義はいらない
「この薬でもあまり眠れないですか?」

「はい。」

「ん~。」


心療内科の医師は難しそうな顔をする。

太朗ちゃんとは全然違う仕事だ。

太朗ちゃんはもっといつも忙しそうにしていて

人の命と隣り合わせ。

その点、この医者はいつもここに座って

患者さんの眠れないとか、死にたいとかの悩みを聞いている。

これできっとこの人の方が給料いいんだろうな、と思うと

太朗ちゃんをまた愛しく思える。

頑張ってるなぁ、太朗ちゃん。


「これで眠れないとなると、不眠症じゃないかもしれないですよ。」

「……。」


返す言葉もない。

つまり、私を「うつ病」だと言いたいのだ。


「もう少し様子を見てみます。」


「分かりました。でも、次は予約を取りましょう。
 1週間後にまた来てください。いいですか?」

「はい。」


今までは睡眠薬がなくなったら自分で予約を取っていた。

これからは本当の通院になる。


私はどうやら「病気」らしい。


ショックだった。
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