シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】
エミリーが落としたスプーンの音に素早く反応したメイは、

新しいスプーンをエミリーに渡し、床に落ちたスプーンを拾いながら言った。


「昨夜、アラン様がマントに包んだエミリー様を抱えて、お戻りになりました。

出迎えたメイドたちに湯殿の用意を申しつけて、そのまま湯殿までお連れしました」

―――えっ?湯殿・・・?

湯殿ってお風呂よね・・・

まさか―――


「あ・・あの・・・・」


今までの不安な気持ちが吹き飛んでいく。

裸を見られたショックに口をパクパクさせ、あたふたと手は動き、

頬はみるみるうちに赤く染まっていく。



そんな様子に、メイは堪らずにクスッと声を出して笑った。


「大丈夫ですよ。アラン様は湯殿までお連れしただけです。

お世話はメイドがいたしました。

アラン様はエミリー様が出たら報告するようにと言い残して執務室に行かれました」



人に素肌を見せたことがないエミリーにとっては、相手が女性とはいえショックだった。

どこまで見られたのだろう・・・

そう考えるとまた頬が熱くなる。



「そしてアラン様が自分の寝室にエミリー様をお連れしたのです。

ほとんど丸一日寝てらしたので、私たちも心配いたしました。

目覚められて本当にホッとしました」



―――一日中・・・。

ここがアランの寝室だという事実はすっぽりと抜け、一日寝ていたことに軽いショックを受ける。

窓の外に目をやると、遠くの山に日が沈みかけ、2つの月が空に浮かび上がっているのが見える。


―――え?2つの月・・・何で?・・・・もしかして、ここは異世界なの―――?


エミリーは改めて部屋の中を見廻した。



「うそ・・・・本当に?」

エミリーはもう一度抓った頬の痛みに呆然とした。
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