シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】
呆然と空を見ているエミリーに、メイはどこからともなく持ってきたドレスを手渡した。

「こちらにお着替えください。執務室にお連れ致します」

と言うと、テーブルの上の皿をてきぱきと片付け始めた。


エミリーは言われるままにそのドレスに手を通した。

サイズは測ったようにぴったりで、まるでエミリーのために作られたようだった



「よかった。ぴったりですね」

嬉しそうに言うと、メイは櫛とヘアピンを駆使しエミリーの髪を綺麗に結い上げてくれた。


メイの腕が良いのか、鏡に映る姿はどこか異国の姫君と言われてもおかしくないほどに美しい。


ふわふわの巻き毛のブロンドは丁寧に結い上げられ、宝石が散りばめられた髪留めで留められている。

薄いメイクも施され、白く美しい肌とアメジストの瞳に、白地にうす紫のレースのドレスがよく似合っていた。



―――これが、わたし?―――

目の前の自分が信じられないと言った面持ちのエミリー。



メイは良い仕事をしたとばかりに満足げにため息をついた。

「よくお似合いです。さ、参りましょう」





エミリーはメイの後についてアランの待つ執務室へと向かった。

寝室の扉を出ると、長い廊下がどこまでも続いている。


曲がり角を何回曲がったか?と数えたくなるほどの迷路のような城の廊下は、1人じゃ迷子になりそうだ。


暫く歩くと向こうにもうひとつ塔があるのが見えた。

「今までいたところは王子様の寝殿で、こちらの塔は主に政務が行われるところです。

もうひとつ塔がありますが、そちらは国王様の寝殿でございます。

・・・もう少しで着きます。」



前を歩くメイの説明を聞いていると、目の前に重厚な扉が見えてきた。



メイがピタッと立ち止まると、小さな拳を作り遠慮がちに扉を叩いた。

コンコン・・

小さな音に、扉の向こうから短くはっきりとした声が響いた。


「入れ」


その声に反応し、メイが扉をゆっくりと開いた。
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