シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】
「エミリー、本当に君なのか?」


ブルーの瞳が愛しさと優しさを湛え、無言で頷くエミリーを見つめた。

アメジストの瞳はまだ涙に濡れている。

持っていた剣をすぐさま仕舞い、あたたかな光の中で立っているエミリーの傍に近づいた。



アラン様の逞しい腕がすぅっと伸びて、そっとわたしを包んでくれた。

やっぱり夢ね・・・あの腕のぬくもりが感じられない。

トクントクンとリズム良く刻む、あの落ち着く鼓動が聞こえない。

でも、いいわ。夢でも・・・アラン様に会えたもの・・・声が聞けたもの。

できればこのまま目を覚ましたくない。

アラン様の側に居られるなら、ずぅっとこのままがいい。



アランの瞳が愛しげにエミリーを見つめている。

愛しい身体は夢の中とはいえ、自分の腕の中で胸に頬を預けてくれている。


――これは私の想いが見せた夢か・・・?コレが現実ならば良いのに・・・。

夢はいつか消えてしまうものだ。


コレは神のいたずらか、それとも問い掛けておるのか。


“覚悟は出来ているか”と。


だとすれば愚問だな。そんなことはせずとも、答えなど既に出ておる―――



そんなことを考えていると、腕の中で、エミリーの身体がグニャリと揺らぎ始めた。

不思議に思いながら見ていると、ぼやぼやと輪郭がぼやけ、徐々に人の形を保てなくなってきた。


まさか・・・これは―――



「エミリー、君はここにいちゃいけない。今すぐ戻れ」


「イヤ・・・戻らないわ・・・戻りたくないの」


――せっかく会えたのに、帰りたくない。


アメジストの瞳から滴がはらはらと溢れ、頬が涙に濡れていく。

アランの手が頬のあたりに伸び、涙を拭く仕草をした。



「駄目だ。君は戻ったほうが良い。夢の中とはいえ・・・・もう・・・二度とこちらに参ってはならぬ。良いな?」


来ちゃダメって、もうアラン様の夢を見ちゃいけないってこと?

夢にも想ってはいけないってこと?


「どうして・・・?」


「君の、ためだ。良いな?もう来てはならぬ」



怖いほどに真剣なブルーの瞳・・・。

夢の中でもアラン様にフラれるなんて。


「ごめんなさい」


わたし、もう青い空をみないわ。


青い海も、青い宝石も。


あなたの瞳を思い出して辛くなるもの。


あなたを想ってしまうもの・・・・。



また、夢を見てしまうもの―――
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